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TraditionJAPAN Special Interview – 第8回 渡部 近志 氏

TraditionJAPAN Special Interview - 第8回 渡部 近志 氏

本日のお相手

渡部 近志(わたべ ちかし)氏
渡部 近志(わたべ ちかし)氏
スポーツ方法学(コーチング・指導)

第8回/対談のお相手は
渡部 近志(わたべ ちかし)氏 1947年10月4日生まれ。
1972年3月 日本大学文理学部体育学科卒業
1974年4月 国士舘大学体育学部奉職(陸上競技研究室)
1982年2月~7月 大学在外研修制度にてアメリカ合衆国カルフォルニア州グレンデール・カレッジ・コーチ留学
(男子短距離・ハードル選手指導担当)
1995年4月 法政大学経済学部奉職
2001年7月 NPO法人MIPスポーツプロジェクト理事
2008年4月 同法人副理事

これまでの指導経験、講演、講習を通じて多くの人々と接してきた。スポーツを通じた指導、講習内容であればその自身が持っているキャラクターを十分に発揮できる。つまりスポーツを通じた人間関係を大切にしたいと考える。

<専門分野> ■スポーツ方法学(コーチング・指導)

<競技歴>
1966年 東京陸上競技選手権大会十種競技優勝
110mハードル大学ランキング1位
1968年 全日本インターカレッジ110mハードル優勝
1969年 全日本陸上競技選手権110mハードル優勝
1970年 全日本実業団陸上競技選手権110mハードル優勝
全日本陸上競技選手権110mハードル優勝
第6回アジア大会(バンコク)110mハードル金メダル

<コーチ歴> 1974年~1995年  国士舘大学陸上競技部短距離・ハードルコーチ
1995年~1998年 法政大学体育会陸上競技部コーチ
1999年~2003年 同大学コーチ兼監督
2007年~ 体育会ハンドボール部長

<過去の経歴>
■ 日本陸上競技連盟強化委員
■ 国際交流基金インドネシア
コーチ育成事業コーチ(2年間)
■ アジア選手権大会コーチ
(クエート、シンガポール)
■ ワールドカップ陸上(ローマ)
アジア地区コーチ

<メディア出演 >
■ NHKテレビ解説(日本陸上競技選手権、インターハイ、国体など)
■ オリンピック陸上競技解説(ロス、ソウル、バルセロナ、アトランタ)
■ アジア大会陸上競技解説(ソウル、広島、北京、バンコク、釜山)
■ TBS世界陸上競技解説(東京、セビリア、エドモンド)
■ NHK教育テレビ/スポーツ教室

<主な指導選手>
■秋元恵美:100mハードル日本記録(国士舘)
■秋元千鶴子:400mハードル日本記録(国士舘)
■市川隆史:110mハードル日本学生記録(法政)
■市川隆史:110mハードル日本学生記録(法政)
■川畑伸吾:400mリレー日本代表(法政)
■為末 大:400mハードル世界大会3位(法政)

矢作:本日の対談のお相手は、渡部先生でございます。どうも(笑)。

渡部:お願いします。

矢作:渡部先生、私の大学の陸上競技の顧問をなさっていて、あこがれの的でしたね。

渡部:(笑)。

矢作:有名な選手も輩出して、ご自身もアジア大会出場。

渡部:今、振り返ってみると、比較的ラッキーだったのかなあ—僕の時代は。アジア大会で金メダル取ったんですけど、社会情勢が色々と不安定な時期で、アジア大会そのものが中止になるかもしれないという様な状況だったのです。

矢作:そうだったんですか。

渡部:その位に厳しい社会情勢だった。しかし、タイのバンコクが第6回を引き受けてくれるということで、本当にぎりぎりまで、やるかやらないかっていう状態でした。

矢作:そうでしたか。

渡部:それで、もう1つラッキーだった事は、中国がまだ閉鎖的だったものですから、国の選手がライバルライバルとして少なかった。

矢作:なるほどね。年代は——。

渡部:そうだね、1970年。

矢作:オリンピックでいうと、何オリンピック?

渡部:何だろうね、東京オリンピックが1964年、それが高校2年生のときだったのね。それから6年後の法政大学を卒業するアジア大会だったから—-。

矢作:学生時代の大会だったということですね。

渡部:優勝出来た事と同時に、表彰式で日章旗、日の丸が揚がって、そして君が代が流れる時がとても感激しました。

矢作:なかなか経験できませんよね。

渡部:いや、もうね、目頭を抑えて、こらえよう、こらようと思っていた涙が、もう一気に爆発してね。あの時の感激というのか、感動というのを人に言葉で語るっていうことが非常に難しいなあ—–。自分の力を十分出し尽くし、あれで満足して、一つの節目というのを迎えた様に思いますね。それ以後の競技生活のモチベーションは下がってしまいましたから。

矢作:生きていく上で目的とか目標とかっていうのを小さくても、大きくても皆さん持っつと思うのですが、先生の中で、大学4年間の陸上競技の目標は、そこにあったかもしれないですね。

渡部:そうですね。それとあの当時、また日本の社会情勢では、なかなか外国に行って試合するっていうことができない時代で、レートも1ドル360円の時代でしたし。

矢作:その時代でしたかね。

渡部:そうそう。

矢作:長く続きましたけどね。360円時代。

渡部:それで非常に外国行って試合できるという喜びと、それから勝った感動と、そしてもう自分の役割はこれで終わったのかな—-という感じでしたね。

矢作:ええ。

渡部:1968年がメキシコオリンピックだったんだけど、メキシコオリンピックも、それから70年のアジア大会、その辺が一番脂がのっていたかな。

矢作:そうですか。

渡部:オリンピックには出られなかったけどね。

矢作:そうですね。この間の世界選手権で決勝に出た高野さんとかね、オリンピックの決勝に出るっていうのは、奇跡に近いようなところがありましたものね—–日本の現状として。

渡部:ですね。

矢作:短距離は特に。

渡部:高野選手にも色々聞いたことはあるんですけどね。やっぱり壮絶な戦いだったみたいね。

矢作:でしょうね。

渡部:だからそういった意味からすると、やっぱり燃え尽き症候群かな。そこまで目的を果たしてしまうと、ちょっとね、モチベーションが下がる。

矢作:先生的には、私たちアジア人と西洋、特にアメリカの黒人の選手とを比較して、特に短距離競技は圧倒的に強いと思いますが—–どうですか?体型でしょうか?

渡部:体型の違いもあるんだけど、やっぱり筋肉の質というものもあるだろうし、—-とは言いながら、私たち黄色人種も、北京でも400mリレーで銅メダルの成果を出した事を見ても、人種的なものも、それほど心配する事では無いですね。

矢作:はい。

渡部:ただ、タレントが少ないというかね、そこでしょうね。

矢作:はい。

渡部:後は指導方法かな。

矢作:はい。

渡部:そういう環境をきちっと整えてあげないといけないと思うんだよね。

矢作:勝負事であるし、スポーツですから、勝ち負けとか、どっちが金を取るということの比較になると、必要だと思います。先生がアジア大会に行かれた頃は、中国も出場していなくて、まだアジアは日本の敵じゃなかった訳ですが-。

渡部:そうね、その時代はね。

矢作:先生がおっしゃったように、今は結局、韓国、中国も含めてアジアに優れた指導者が出来上がって来ましたからね。

渡部:そうですね。選手強化のための環境がきちっと整って、財政的な環境、施設環境、それから指導者も含めて、総合的な環境という上に立てば、遥かにきちっとした結果が作り上げられた。

矢作:そうですよね。結局、最初にお話しした様に、アジアが目的・目標というものを目指しながら、自分との闘いを続けて言った結果です。

渡部:そうそう。

矢作:アジアは、指導とか、金銭の現状と政治とか色々あって、日本よりも弱かったアジア諸国も、ものすごい高いところに目標を置いて、それを克服して来た。

渡部:それだけの国家的なエリートとして育成されて行くし、そしてある意味の国に対する忠誠心だとか、それから自分のクォリティ・オブ・ライフが高くなる。

矢作:そうですよね。

渡部:モチベーションがあるからやっぱり強くなったのかなあ。

矢作:モチベーションを得る条件が、奇麗事だけではなく、「金を取ったら一生」みたいな所がありますよね。

渡部:そうですね。今のオリンピックは、プロ・アマ、壁がないんです。アマチュアという言葉がなくなった現在ですから。

矢作:決定的に違うアマチュア、プロっていうのは、ギャランティやスポンサーですか?

渡部:オリンピックにはプロ選手は強い規制があって出られなかったけれど、その一番強い規制を取っ払っちゃった訳だから。

矢作:はい。野球がそうですね。

渡部:そう。その中で、プロの戦いがオリンピックで現実に見られる様になった。テレビの放映権料もそれに次いでどんどんどんどん高くなって、現在は質の高いオリンピックを今展開している。

矢作:そうか。そういう意味では、オリンピックって色々な角度から考えられるイベントですね。ジャマイカの選手なんかでも、一生涯生活を保障される為に、アメリカのスカウトからアメリカの市民権を得るっていうパターンもありますものね。

渡部:ですから、あの辺の国際感覚というのかな、国籍というものはあまり意識していないんじゃないかなあと思う。

矢作:目標・目的は何かっていうと、やっぱりKING of the worldですか。

渡部:そうそう。それとやっぱり自分のパフォーマンスを財産に、自分を売り込む訳ですから、金メダルは欲しいだろうし、自分の資質を高めて、生活していく、いわゆるプロフェッショナルリズムということですね。

矢作:今のアジア大会は、韓国もすごい強くなっているし。勝つと言う事は難しいですよね。

渡部:これがまた非常に大変なところで、まず日本の実際の競技力を考えていくと、一部の水泳だとかっていうのは、ある意味で日本がリードしていたり、陸上競技でも、ある種目によっては圧倒的に強い種目もあるんだけど、総体的にこれから中国の力というものがどんどんついてくると、私たちも、ウカウカしていられないね。

矢作:そうでしょうね。

渡部:時代の流れかなあと。

矢作:1964年に東京オリンピックがあって、それから今回の招致はブラジルに決定しましたけれど、国中上げて、例えば、目的が金を取る、メダルの数を多くしようと言うなら、確固たる目標が作られていかなきゃいけないと思います。それで中国が今回オリンピックを成功させました。

渡部:はい。

矢作:オリンピックの招致が決まったときに、既にオリンピックでの戦いを成功させようという、金をいっぱい取ろうというそのプロジェクトが始まっていますよね。

渡部:そうそう。

矢作:ちょっとそれが、日本には残念ながら——-。

渡部:そうね、社会的な共有感みたいものはないな、ちょっとね、そういう意味ではね。

矢作:学生と今向き合っていらっしゃる先生が、学生もある意味無気力のように見えていても、ひとつの大きな何かイベントや、先生が日の丸を見て涙を流されたように、『自分たちは競技成績で大学の名を上げよう』とかそういう一体になるイベントがあると目標に向かい易いっていうのはあるんじゃないですかね。

渡部:そうね。ある種の文化的な要素っていうのかな、いわゆる知力、学力を上げるだけではなくて、もう少し日本の文化だとかっていうものをきちっと教育していって、そうしないとオリンピックを誘致するに関しても盛り上がらない。

矢作:そうですね。おっしゃるとおりだと思います。傍観的な意見でしかないですが、今回は何か付け焼き刃的な物を感じました。先生、聞きたかったんですが、私たちが学生の時にアメリカに渡られましたよね。

渡部:はい。

矢作:私にとってその時は、非常に遠いアメリカ、あこがれの国アメリカ。もうUSAという、あのユニフォームを見るだけで、オリンピックに出たいなあって、実力もないのに思っちゃう位のあこがれの地に行かれましたね。何を目的に行かれたのですか?

渡部:アメリカの陸上競技は、カール・ルイスを初め、素晴らしい選手が出て、世界の陸上競技を牛耳っています。その陸上競技の本場ではどういう練習、トレーニングをしているのかに非常に興味があって、大学から行かせてもらいました。6か月という短い期間、ある種、ああ、これがアメリカのスポーツなのか、コーチングなのかっていうことが本当に勉強になりましたね。

矢作:その前は、ある意味、キング・オブ・渡部みたいな、そういう世界があったわけですよね。

渡部:(笑)いやいや、確かにあったよね。

矢作:日本では無敵的な先生に、アメリカはどうでしたでしょうか。

渡部:基本的に指導者の勉強をして、アメリカの学生、ジュニアカレッジの18、19、20歳の若い選手を教えました。スポーツ文化、陸上文化の総意みたいなものが日本の陸上文化とアメリカの陸上文化は、コーチングの上で、その大きな違いを学べました。日本の指導者ってこうでなければ駄目だって言い聞かせるように指導するんだけども、向こうは違うんですよね。

矢作:はい。

渡部:お互いに合意のもとに、「じゃあ、こういうことやってみようか」。それと同時にもう1つは、常に褒めてあげる。「グッジョブ!」って。「ああ、おまえのパフォーマンス、今のグッジョブだよ」。本当は、記録的にはもう少し下なのだけど、でも決して貶さない、選手の努力している姿を常に褒めていくやり方。

矢作:うん。

渡部:それで、もう1つ大切なのは、スポーツで人間を育てるという事。根本はそこにあると思うんだよね。

渡部:ただ走らせているだけじゃなくて、強くさせるだけじゃなく、早くなることによって大学からスカラシップもらえる可能性があるから、無論それも大切な要素だけど、それ以前に、人間としての成長を見守っている、それがスポーツ。日本に帰った時に、ちょっと照れ臭いんだけど、選手を褒めて育ててみようかなあと思ったね

矢作:はい。

渡部:でも実際に帰って来ると、これがまた難しくて。

矢作:そうですね、現実を見ちゃいますからね。

渡部:そうそう。

矢作:オメエラって言いたくなっちゃうところがたくさん。

渡部:そうそう、何をやっとるんだ!と。

矢作:アメリカのやり方っていうのも、結局、選手がモチベーションを上げて、褒められることによって、ちょっとマイノリティよりもプライオリティを考えて、コーチの方でもその先の目的・目標を明確に提示し易かったのでは?

渡部:そうだと思うのね。彼らも当然大学進学することは、非常にお金がかかる。日本で考える大学の授業料からすると、アメリカは非常に高いと思うし。

矢作:ええ。

渡部:だから、やっぱり大学へ行くための資金というものは、そういうスカラシップが欲しい。目的はっきりしているよね。

矢作:そうですね、現実ですもんね。

渡部:そうそう。

矢作:でも、そのモチベーションをは、お金だけではなくて、何か国の名誉みたいなものも育てていきますよね。

渡部:そうそう、いくいくそういうふうに育つ。

矢作:結局、お金だけのためにやっていると、カール・ルイスみたいになりたいと思うのと違って、見ている側にも伝わらない事がありますよね。3年前の大阪世界陸上でアメリカのゲイとジャマイカのパウエル選手の戦いがありました。そこには嘗てコーチが失格になり、果たせなかった夢をゲイに託したというストーリーがありました。

渡部:そうだったっけ。

矢作:フライング3回目して、天を仰いだコーチの記憶の中で、ゲイを世界でリベンジして貰いたかった。

渡部:なるほど。

矢作:ある意味コーチと選手っていうのは、そういった師弟関係、おれの果たせなかった夢を託すよ! みたいな—。

渡部:それはあるね。ある、ある。

矢作:ありますか。

渡部:うん。過去の私の選手。

矢作:秋元さんとか。

渡部:そう、日本記録保持者が2人。法政に行って為末という、世界のトップの選手と巡り会えた事で僕が果たし得なかった夢が彼らによって実現した。嬉しかったよ。

矢作:どうですか。一流の選手は、何か非凡な所がありますか。

渡部:そうですね、これがどうのこうのって言う訳ではなくて、非常に個性が強いですね。

矢作:なるほど。

渡部:だから、やっぱり人を惹き付ける魅力っていうのはあるわね。

矢作:それは、何でしょうね。

渡部:よく分からない。

矢作:私が思うには、誰に手伝われなくても、完全に自立している所と言う感じがするんですけど。

渡部:そうそう。そうでないとスポーツの世界は駄目なんだよね。だから100%コーチから何かを受けるだけで無く、コーチがアドバイスする事に疑問をいつも持っているとか、そして自分は出来ないと、平気で聞き流す勇気みたいな物がある。重要かもしれないね。

矢作:ええ。

渡部:陸上競技は、ボールゲーム、チームスポーツとは違うでしょう。個人対個人だから。逆に言うとチームスポーツだとそういうことが許されないけど、個人陸上競技だから、自分の競技に対する考え方を鮮明にして置かないとね。自分で競争するんだから。

矢作:そうですよね。

渡部:コーチが競争するわけじゃないから。

矢作:本当に。何か、話ししているだけなのに、スタート地点に立っちゃいました。ドキドキ(笑)。

渡部:そうですよね。あなたも優勝されましからね。ワー!素晴らしい!(笑)。

矢作:いえいえ、先生、過去は封印していますからね。

渡部:うん。

矢作:でも、一人一人が「個」を持っていて自立という部分で、色んな人とコンフィデンスとプライドについて話しします。コンフィデンスって自分の中にある自信ですよね。

渡部:うん。

矢作:プライドって、負けず嫌いで、他人とのコンペみたいなところで、負けたくないっていう気持ち、それは何かモロい気がします。本当の一流選手はどうなんでしょう。プライドというよりもコンフィデンスの方ですよね。

渡部:そうそう。そこでまた成長して行くんだな。競技力がついて、一つ一つ質の高い、試合に優勝して行き、プライドからコンフィデンスに変わるという。

矢作:はい。

渡部:ですから今トップアスリート、水泳にしても、北島君にしても、為末君にしても、トップアスリートのインタビューを聞いていると、びっくりするほど素晴らしいインタビューの答え方と態度ですよね。

矢作:はい。

渡部:トップアスリートになる為の大きな要素であると思うんだよね。

矢作:それは培われていくものではなくて、一つの要素、最初からって物もあるんですね。

渡部:そう、おそらく教育されなくても、競技力が高まっていくとそういう態度や姿勢、それから言葉遣い、それから自分の理念みたいなものがより研ぎ澄まされて来て。

矢作:体験が作っていくという感じなんですかね。

渡部:そうそう。トップアスリートの共通する点っていうのはそういうところにある。また、そうでないとトップアスリートにはなれないんじゃないかな。

矢作:そうですね。

渡部:世界のトップアスリートを見ても、マスコミに対する受け答えはすばらしいよね。一応レクチャーを受けるらしいんだけれどね。

矢作:何だろう、石川遼君にしても、私の様に50過ぎたおばちゃんが聞いていても、「うわあ、自分自身でしっかりやっていかなきゃいけないよな」って教えられているような感じがして来ますから。

渡部:そうね。大学でもそういう授業を教えている。トップアスリートの一つの条件として、コミュニケーション能力だとか、意見に対して、問われた事に対して自分の意見を展開できる能力も持っていないと、世界のトップアスリートの仲間内には入れない。

矢作:はい。

渡部:あと付け加えるとしたら語学力。最低限英語はしゃべられないといけないかなあ。

矢作:世界の極みを見る為にはですね。コンフィデンスかプライドのどちらかだとしたら、日本の国のあり方も考えなくちゃ。アジアの中で日本の地位というのは、マーケットの世界でもちょっと追従を許さない位置にあったと思うんですよね。

渡部:うん。

矢作:韓国でもオリンピック成功させたり、中国で万博もありますね。いろんな点で、日本が今置かれている立場は、プライドではなくて、コンフィデンスにそろそろ向かわなきゃいけないっていう気がしてならないんです。

渡部:これからだろうな。大きな一つ一つのテーマを着実にやっていくということも必要だし、それから、回りくどい言い方すれば、一人一人の日本人の、考えあっての日本だから、世界を頭の中に入れて、日本人としてどう行動するべきかとかね、考えていかないといけないとは思うんだけどね。

矢作:先生が教壇に立っていらっしゃった私の学生の時と、遥か30年経った今の学生とは、ネットによってグローバル化で圧倒的に情報量っていうのは、今の学生のほうが持っていると思うんですよ。

渡部:あるね。

矢作:圧倒的に国際感覚に近づいていると思いますが、先生から見て、その感覚はどうですか?

渡部:そういう感覚はあるけどね。就職状況を見てみると、安全圏っていうのか、安定志向型、公務員とか、冒険が少なくなったかなあ。今年卒業した4年生で渡部ゼミから出た子が、1人で夏休みにヨーロッパにボランティア活動で行ったり、卒論もイギリスのフットボールチームを研究したり、結果的に将来は諸外国に出て仕事に就いた。そういう反面、安定志向型も結構いるんだということですよね。

矢作:はい。

渡部:だから、大学の特色かもしれないけれど、世界に目を向けた就職がそろそろあっていいのかなと思うんだけど。

矢作:私には大学の事情はあまりよく分かりませんが、大学の教授たちの方針として、確固として何処に行くのかと言う「目的・目標」が、まさにオリンピックで何個メダルを取りたいのかと同じようなクォリティで、学生達へのビジョンはどうなっているのでしょう。

渡部:それは私達の大学時代より、今の方が厳しいかな。学士力っていうものがどういうものなのか、はっきりと非常に強いものを求められてきているっていうのが今。

矢作:愚問なんですが、その強いものっていう物の指針は、どうなのかなって、誰が決めるのでしょう。

渡部:結果的には大学自身、学部自身が教育の理念とか、構成とか、内容とか、そして就職についてしっかりした考えを打ち出しなさいと、言ってきているんだよね。

矢作:はい。
渡部:だから、僕達のあの時代の大学教育とは、ちょっと変わってきているかなあ。狙いがハッキリしてきているというのかね。ただ、学生の勢いという意味からすると、あの時代の学生の方が勢いがあったかなあという感じ。
矢作:そうすると、先ほどの中国の話じゃないですけど、経済的に今はデフレ状態で、非常に日本もGDPも下がっている状況。一方、私達の時代はバブルで、ある意味、高度経済でその中にいると何でもできちゃうかなあみたいな頃でした。情報は今程に無いんだけど何でも出来てしまう様な。そういう感覚と、今を比較すると、ギュギュギュとなっている。

渡部:そうだなあ、ギュギュギュと言うより、きちっと整理されてきたとも思うんだけど。

矢作:だからこそ今、コンフィデンスとプライドですよね。もうそろそろ独自性の強さっていうものを教育していかなきゃいけないのかなって。安全パイだけじゃなくてって感じるのは、傍観的な立場で考える所ですけどね。

渡部:そうだろうな。僕たち大学の中にいる人間よりも、外から見たほうの眼力のほうが強いと思うよ。そういう感想を持って、もっとこうあるべきだよっていう意見をどんどんどんどん社会的に発信して欲しいよね。

矢作:この間さる先生とお話しした。「べき論」ではなくて「吸収論」、要するにオープンマインド、何でも吸収しようという。「これもあるよね、これもあるよね」っていう選択肢を選ぶ、それの目標・目的がちゃんと打ち出されていないと、「べき論」になっちゃうと。もう、これしか無いってなると、アウトローにいきそうだけど、条件的なものが沢山あり、選択を打ち出す何か、それを与えるカリスマというか、大学にそういう理想があったらいいなあって思いますけどね。

渡部:そうだな。だからかなり教員の採用についても、そういう先生を求め始めてきているかなあ。

矢作:だって影響されますよ。私等が渡部先生から影響されたのと同じように、やっぱりまだまだ青春時代を謳歌している人間たちっていうのは、豆腐のように柔らかいですから。そこで与えられたもので、ああ、こういう風になってみたいっていうのは、1つの目標になるわけで、そういうもにコンフィデンスになる何かがある。

渡部:だから逆に言うとさ、君はその方向に今目指して頑張ろうとしている訳でしょう。

矢作:そうですかね。そうじゃないと自然的に世界なんかを見たときに、先生おっしゃいましたように、日本の何を誇って行くっていうのがなかなか言えない子どもたちが多い。

渡部:うん、そうだな。

矢作:それは、コンフィデンス。

渡部:アメリカに何年行っていたんだっけ?

矢作:2年しか行っていないんですが。

渡部:2年も行っていてさ、そして外から日本を見たでしょう。
矢作:はい。

渡部:そういう事ってオレ大切だなって思っているわけ。だから井の中のカワズじゃないけども、チャンスがあったら行って、やっぱりそこで生活をしてみる。悲しいことも苦しいことも、言葉の問題もね、ハンディキャップもあって、寂しいなあと思いながら日本を見てみる。

矢作:想ったりとかね。

渡部:そういうことがひとつ大切な要素なのかなあと思う。

矢作:殴られなきゃいけないのかなあと思うのは、思い込みの中で生活をしていると、ある意味、親も叱らない、先生も叱らない中で、思い込みがどんどん膨らんでしまった時に、じゃあ誰が殴ってくれるかっていうと、もう外からは無いって思うんですよ。

渡部:うん。

矢作:そしてポーンと海外に行くと、ずたずたにプライドが傷つけられるわけですよね。「おまえは日本人なのに何も日本のこと分かっていないのかっ」て言われた時、そこで何か初めて勉強しなきゃと思う。

渡部:それがいいんだよな、また(笑)。

矢作:それを殴ってくれるケーススタディを、先生達もなんで留学をするのかっていう、ここをちゃんと掴んでおかないと、猫も杓子も外国に行っちゃうと、適当に遊んで帰って来たり。

渡部:結構いらっしゃいますからね。

矢作:そんなのが、何の為にってやっぱり、「目的・目標を与える親」であり、「教授」であり、「先生」であり、そこじゃないですかね。

渡部:そうだよな。僕は6か月という短い期間だったけど、それは陸上競技のシーズンというのは2月から6月までだから、7月いても意味がないからね。それでその時はもう結婚して子どもが2歳ぐらいだったのかな。

矢作:はい。

渡部:それで1人でアメリカへ行って、1人でアパート生活をしていたんだけれども、非常にいい経験をさせてもらったね。あれでちょっと人生観も変わったかなという。

矢作:帰られてから、ますますまた違った付録がいっぱい付いて来たような。

渡部:そうね。

矢作:それは運ばれてきて、一番近い教わる人間にとっては、ますます目指しますよね。

渡部:だよね。

矢作:そういうのが必要かなあっていう風にはね。

渡部:それでもう1つ良かったなあと思うのは、陸上競技をやっているから、アメリカの学生も陸上競技をやっているわけでしょ。確かに僕の英語力ってすごく低いから、そうするとどうなんだろうという心配がものすごく先立っていたわけね。

矢作:はい。

渡部:でも実際に行ってみたら、競技場の中ではもう対等に出来るという変な自信みたいなものができてね。非常に楽しかった、有意義な6か月だった。

矢作:むけますよね。今までの袋に入っていた自分が、パッツーンと国際的にむけますよね。

渡部:そうそう。非常にいい生活、楽しかったなあ。毎週毎週もう試合だから、その都度学生をGood job, Good jobと褒めながら、それで次第に強くなってくるのね。

矢作:外側からは、アメリカ人から見ると、渡部近志はもう完全に日本人なわけですよね。

渡部:そうそう。

矢作:そうすると、彼らの中でも、日本人だからちょっと国際間的にやさしくしなきゃみたいなところもちょっとはあったのかなあという、その辺はどうだったんですかね。

渡部:だろうね、そういうふうに見受けられます。ただ、非常にコーチという存在、また彼らにとってはランク上だからね。この人に教わるんだっていうことになると、もう一生懸命質問してくるわけ。

矢作:なるほど、そうですね。

渡部:「コーチ、今日は何をやるんだ?」「いや、今日はこういう事と、こういう事をやりたい」「じゃあどうすればいいんだ。ウォーミングアップはどうするんだ」ということを常に聞いてくるもんだから、だからおちおちしてられない。

矢作:うん。

渡部:日本の場合、そんなことあんまりないじゃん。

矢作:そうですね。

渡部:「今日、これとこれとこれやる」「はい。終わりました」こんな感じだもんね。

矢作:先ほどおっしゃったように、自立している人間、オーラを持っている一流選手っていうのは、これでいいのかなって思いながら否定をしつつ自立する。自然にそういう土壌があるのはヨーロッパとか欧米の人達でしょうね。

渡部:そうそう。

矢作:それはある意味、学ばなきゃいけない点かもしれないですね。

渡部:そうですよね。でも千鶴子さんは、そういうものをもともと持っていたわけだから、素晴らしいなあ。

矢作:そんな、ここは私を上げる、あれじゃないんですけど。

渡部:いやいや、素晴らしい。

矢作:私は常に考えるのは、競い合う事で無く、日本がこれからどういう風にしていったらいいか考え続けます。体型的にはもう農耕民族と狩猟民族ですからね。

渡部:うん。

矢作:特性的なものをコンフィデンス持って、うんと世界に向かっていける道を、いろんな方々とお話ししながら模索しています。

渡部:そうですね。そういう観点から言うと、陸上競技の世界もそんなに悲観する材料ばっかりではなくて、まず最初に成功したのがマラソン、そして短距離が成功した。だよね。

矢作:マラソンですね。

渡部:マラソンが成功したでしょ。北京では短距離チームが3位にも入ったし、ですから、考えていくとまんざらでもないのよね。

矢作:うん。

渡部:日本の陸上競技の国際性や競技力は、今後さらにシステマティックに選手の育成ができるかどうかというところが大きな視点で、環境というものを整えていかないと難しい問題があるということだよね。環境とは何ぞや—って言ったら、やっぱりそういう練習環境を整えてあげる必要性。

矢作:はい。

渡部:そうすると、日本人、オオって思うよ。

矢作:そうですね。

渡部:でもその環境が、景気が悪かったり、企業がスポーツから撤退して、じゃあどこで環境整備するのかというと、やっぱり国に頼まなきゃという。その国も今予算が厳しい。

矢作:独立行政法人もね、予算を削られていたりしますからね。

渡部:スポーツ文化に対する予算の配分っていうのも厳しい段階にきているかなあ。

矢作:オリンピックになったときに、金は何個って数えるじゃないですか。でも、どれだけの血を流さなきゃ、汗を流さなきゃいけないっていう部分、それをサポートするのはお金だけじゃないけど、その「目標・目的のあり方」の環境づくりですね。

渡部:うん。

矢作:そこって何かスポーツだけじゃなくて、文化もそうだと思いますよね。文化の点、芸術も音楽も含めてなんですが。何か国として、韓国も中国もいいケーススタディを積んできて、世界に躍り出ようとしている。そこに日本に指揮官的な、指導者として何か問われているような気がしてしょうがありませんね。

渡部:そうだね。話ちょっと違うんだけどさ、ヴァン・クライバーン、ピアニストの、そのコンサートに辻井君、盲目のピアニストが出て優勝したんだけれども、あのビデオを時々見るんだけど、非常に感動するんだよ。世界へ打って出る、あの勢いがもっと日本の若い人達に欲しいなあ。

矢作:うん。

渡部:おれもできるぞってね。

矢作:ある意味、ライバルとして、比較っていうよりも自分の一番いいところっていうものを見つけて、それを自分の大きな特性として、日本のみならず世界に出ようという指導者とか、導きになる日本の姿勢というかね、そこをトップに立つ人が引っ張ってくれたらいいなあと思っていましてね。

渡部:そこまであれだよね、100%頼らないまでも、何パーセントか、何十パーセントかの力が自分にあればね、もうちょっと世界を目指してもらってもいいのかなあという感じはするよね。

矢作:はい。

渡部:でも偉業というのかな、ああいうピアノの世界で優勝するっていうのはね、すごいことだと思うんだよね。

矢作:いやあ、すごいと思いますね。さっきのたくさんのexperience、体験を積まれていって、盲目の人っていうハンディキャップ目が見えないと聴覚とか嗅覚とか触覚とかが研ぎ澄ませて逆にプライオリティにしていく、それを相当ひとつの自分のパーソナリティとして打ち出していったんでしょうね。

渡部:でしょうね。

矢作:見る者に感動を与えますね。

渡部:しましたね。だからああいう指導、ああいう指導っていうのはおかしいんだけども、そこまで自分がいろんなこと、集中できてできるかなあと思うとね、いろいろビデオ見て本当に勉強させられたなあという感じがして。

矢作:私もその話を聞いただけで触発されました。

渡部:そう、もう何度見てもね、ある場面にくると涙が出てくるんだよね。

矢作:そうですか。初めて知りましたね、そういう性格も表れるって(笑)。

渡部:そうそう、自分がだらしないから(笑)。 

矢作:素晴らしいと思います。でもスポーツもマーケットの世界も、すべて同じ共通な部分がありますね。上を目指すには、いろんなケーススタディを積んで、どこを目指すのかっていう、それが一番大事っていう、一番近いところにいらっしゃるということで(笑)。

渡部:いや(笑)。

矢作:いろんないいお話が聞けて。

渡部:いやいや、お恥ずかしい。もう少し考えをきちっと整理してお話しできれば。

矢作:いや、もう伝わったと思います。

渡部:もっと若い時期に僕がそういうことができれば、もっと変わった自分が今いるんじゃないかなあと思うんだ。けど、今もう63歳か。

矢作:はい。

渡部:63歳でこれからどういうふうにいくのかなって、あんまり成長もないんだろうなあと思って、もうちょっと前からちょっとそういうことが。

矢作:すばらしいんじゃないですか。こんなことを言うのは何ですけが、63歳で自分をそうやって反省できるこのキャパの広さっていうのは凄い尊敬(笑)。

渡部:もう反省だらけです。

矢作:凄いなあと思います。

渡部:申し訳ございません。渡部近志、自分自身に謝らざるを得ない。

矢作:そうですか。私もそういう姿勢で、これから頑張りたいと思いますが、今日はいろいろとご指導ありがとうございました。

渡部:いいえ、こちらこそ、本当にありがとうございました。

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TraditionJAPAN Special Interview – 第7回 杉山 明美 氏

第1回 矢作流着物セミナー in 八芳園  桑の木プロジェクト

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